時山炭」伝統守る 唯一の84歳職人、地域の声励みに

三重、滋賀県との県境にある岐阜県大垣市上石津町時山で作られる「時山炭」。かつて地区の約8割の住民がなりわいとした炭焼きの技を、ただ一人守り続ける職人がいる。同町下山の水野靖弘さん(84)だ。急な斜面での木の切り出しは大変な作業で、「年々、体がもたなくなってきた」と言うが、周囲や卸先からの「伝統を絶やさないで」との声に背中を押されて山に入る。1日には、今年最後の窯出しを行った。
 時山地区は、古くから炭焼きで生計を立ててきた木炭の産地。厳しい自然条件で育った樹齢30年以上の原木を使い、独特の形の窯や焼き方から、断面に放射線状の割れ目がある硬くて火持ちの良い木炭ができる。燃料が石油へと変わり、昭和30年代をピークに職人は減少、今は川添さんが一人で伝統を守っている。
 炭焼きは今年4回に減った。今回はカシなど約6トンの原木を4昼夜かけてじっくりと焼き上げ、約600キロの木炭を窯出しした。妻の春子さん(83)と手分けして窯から取り出し、手慣れた手つきで裁断機でカットしていった。出来上がった木炭はなじみの人に分けたり、料亭やうなぎ屋などに卸したりする。
 川添さんは、窯から取り出した炭を手に「伝統の灯を消したくない。若い後継者に技術を伝承しなければ」と話した。