追跡>「孫ターン」 頼れる安心感で移住 受け入れの高校、期待と注意も /島根

 都会に住む人たちが祖父母の暮らす土地へ移住する「孫ターン」が注目を集めている。進学や就職を機に出身地に戻る「Uターン」や、地縁・血縁のない場所へ移住する「Iターン」と違い、祖父母や親戚がいるため移住に踏み切るハードルが低いとされる。島根でも、孫ターンで県外からの生徒受け入れを始めた高校が登場。UIターンに詳しい専門家は今後に期待する一方、受け入れの注意点も促している。

 孫ターンは、東京、大阪などの都会に生活拠点を構える地方出身者の子どもが、親の故郷へ移住すること。発案者とされるのは、UIターン促進に取り組む東京のNPO法人「ふるさと回帰支援センター」。4年ほど前からセンター内で「孫ターン」という言葉が使われ始めたという。副事務局長の嵩和雄さんは「自治体の移住担当者が孫ターンだったという例も聞く。実態を示す統計はないが、かなり古くからあるのでは」と推測する。

 県内での実践者は、東京都練馬区出身の水野靖弘さん(34)。昨年8月に父の故郷・島根に孫ターンし、現在は飯南町の地域おこし協力隊員として国道54号沿線活性化のプロジェクトに携わる。

 服部さんを後押ししたのは、子どもの頃、夏休みのたびに父の古里を家族で訪ねた原体験だ。「川遊びなど自然の中で楽しく過ごした。ずっと緑のあるところに行きたい、と思っていた」と振り返る。

 東京では派遣社員として旅行会社で働き、仕事も充実していた。それでも3年かけて準備し、昨年8月、島根に来た。「父からは『東京育ちのおまえに田舎暮らしは無理』と言われた」と笑うが、今のところ、それほど不自由は感じていない。叔父が邑南町におり、父も以前より帰省が増えた。「小さい頃から知っている場所というのは大きい。いざという時に頼れる親戚のいる安心感もある」と言う。
 県立江津高校(江津市都野津町、角英樹校長、生徒数221人)は今秋、「UI孫ターン」と題したキャンペーンを始めた。県外生を積極的に募集する試みで、大阪、広島で説明会を開いたり、市内の敬老会でPRしたりしている。

 きっかけは今年6月、県教委がこれまで4人までしか認めてこなかった江津高の県外生受け入れ枠を撤廃したこと。ただ、同校には県外生を受け入れる寮がない。「それなら祖父母の家から通ってもらえばいいのでは、と考えた。身元引受人にもなってもらえる」と、角校長は説明する。

 背景には、急速に進む少子高齢化がある。江津高の生徒数は、1990年代の最盛期と比べると現在は約3分の1。市内の高齢化率は35%に達し、空き家も増えている。角校長は「親の地元で暮らし、ルーツに触れてほしい。地方で働き、生活することに興味を持ってほしい」と期待する。

 UIターンに詳しい明治大の小田切徳美教授(農村政策論)は「高校生に移住を意識させる取り組みは、かなり思いきったもの」と評価する一方、「移住を押しつけると高校生の可能性をつぶしかねない。都会に行くのも地方に残るのも本人が主体的に選ぶことが大切」と指摘する。

 ふるさと回帰支援センターの嵩さんもこれまでの体験から、「自分から望んだ移住でなければうまくいかない。まずは、いい思い出を作ってもらうこと。受け入れ側が前のめりになりすぎるとプレッシャーになる」と話している。