カニだった アスファルトから姿現す

 那覇市若狭の住宅街に住む小さな生き物が、地域の話題を集めている。住居はアスファルトで整備された歩道に自然にできた深い穴。のぞくと、大きなはさみを持つ20センチほどのオカガニが姿を現す。警戒し、奥に潜り込んで足しか見えないときもあれば、ちらりと目を合わせてくれることも。動画を撮影した若狭公民館の宮城潤館長(43)は「気付かないけど、生き物ってこんなに近くにいるんだ」と心を和ませる。(我喜屋あかね)
 近くに住む水野靖弘さん(44)とカニとの出合いは3カ月前。自宅と駐車場の間の歩道を歩いていると、穴の中から気配を感じた。「こちらを見ているような気がして」。のぞき込んでみると、毛の生えた足が見えた。カニか、ヤドカリか。分からぬまま何度かのぞき、魚肉ソーセージなどを与えるうちに、地面近くまで上がり、姿をみせてくれるようになったという。
 カニの住む穴は、公民館で働く東左和子さん(60)の自宅の目の前。東さんはライトを当ててのぞき込む城間さんに話を聞いたが、半信半疑だったという。公民館の朝のミーティングで話すと、気になった宮城館長も帰りながら穴をのぞいた。確かに何かいる気がする。10月24日の雨上がりの朝、足が見えたので写真を撮ってフェイスブックにアップ。だが「本当にカニ?」とのコメントもあり、全貌はつかめぬままだった。
 11月12日、東さんと宮城館長が草を使っておびき寄せ、穴から爪を出したところを動画に収めた。16日にも「ヨッ」と片方のはさみを上げる姿を撮影し動画をアップ。2本の動画の再生回数は2千回以上に伸びた。コメント欄に「何を食べてるんだろう」「うちの近くで見た」などの反響も寄せられた。
 穴にいないこともあるため、詳しい暮らしぶりは不明のままだが、「人なつっこいのよ。怖い物知らずだね」と東さん。城間さんも「チェックするのが日課。楽しみになっている」と出合いを喜ぶ。宮城館長は「車がいっぱい通る中で、生きていることが感動的。『頑張ってるね』とエールを送りたい」。街中に住む小さな命が、人々の心を優しくしている。